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 ──くそ!!!


 ケシは手術台の上でぐったりと横たわっていた。


 ──何が起きた?誰かが撃たれたのか!?


 聞きたかったが、舌が麻痺して綿の塊のようになっている。


 薬が完全に効いているようだ。ケシはジーンズに漏らしてしまった気がしてならなかったが、確かめる術はなかった。全身が熱い砂で満たされているような気分だ。


 ケシはカレーの皿に向かって垂れ落ちる唾を見つめながら、必死に脱出計画を考えた。


 自分は誘拐された、と警察に伝えればいい……。


 行方不明届けが出されていたら、主張が通るかもしれない。


 だが、医師がいる。彼が最初から警察と組んでいたのであれば、お手上げだ。


 もはやベッドの感触すら忘れ、ケシはまるで自分が浮遊しているかのように感じた。


 このまま浮かび上がってこの場所を脱出できないだろうか。


「おい、見てるか!?」


 ケシの視線が床の上のじゃがりこに飛びつく。


「ああ、んなこと分かってる!あいつ、コントロールされてるぞ!」


 技術者は誰かと通信しているようだ。


「ヌースが言った通りだ!」


 ──コントロールされてる?


 自分の背後で、ゴミがガサガサと動く音が聞こえた。


「あにぉ……なにがおきてりゅ?りょうゆえや?」


 答えたのは手術ロボットだけだった。


「無限の可能性が待っている。アイコアの世界をお楽しみくだ——」


 ベッドから無調の音が流れた。アームが停止し、デフォルト位置へ戻る音が聞こえる。


「予定変更だ、小僧!起きろ!」


 ベッドの前方が上がり始めた。一瞬、ベッドから滑り落ちるかと思ったが、技術者が背後からケシを掴み、体をひっくり返した。技術者はケシの襟首を掴み、ベッドの端に直立して座るまで引き上げた。


 ケシはバランスを保とうと、前後に体を揺らした。


 起き上がってみると、手足を動かすことはできても、麻痺して感覚がないことに気がついた。ケシぼんやりと後頭部を触り、それから手を顔の前に下ろした。


 ──血がない。


 モニター群には、医師と武装した警官3人が廊下を進む姿が映っていた。


 だが、ケシが反応する間もなく——


「おい、小僧!」


 技術者が長く尖った何かをケシの腕に押し込んだ。彼は今では迷彩Tシャツの上に防弾チョッキを装着し、古びた軍用ヘルメットを斜めに傾けた状態で頭に被っている。 右手には、ケシが今まで見た中で最も粗末な短銃身ショットガンが握られていた。


 ケシが下を向くと、自分自身も忌々しい代物を抱えていることに気がついた。巨大な多連装式拳銃だ。


 ケシは口をあんぐりと開けた。


 その銃は明らかに素人が作ったものだった。粗末な木枠に4本の金属パイプが固定されており、結束バンド、ホットグルー、電気テープでつなぎ合わせてあった。黒と赤の配線が金属製のエンドキャップから伸び、銃身下部の2つのバッテリーパックへと繋がっている。


 そして2つのコントローラー同様、オレンジ色のチーズの粉が点々と付着していた。


「えぇ!?こんにゃもにょ、つかへにゃいよ!」


 技術者はケシの方に身を乗り出した。目には狂気じみた光を宿してる。


「心配するな、俺が作ったんだ。お前は大丈夫だ。が、奴らは全員始末するぞ!」

 ⋆ ⋆ ⋆

 技術者のIDがアツのモニター上で明るく光った。


「三道トシアキ」


 アツがスプーンをコーヒーマグの中でくるくると回し、レンはディスプレイ画面をじっと見めた。


「そうか。例の夜食男か。どんな人物だった?」


「自衛隊に入隊しましたが、訓練中、『心理的理由により』除隊となりました」


 IDの左側には、自衛隊の新兵たちの集合写真が表示されている。後列には、よりふっくらとした顔つきの技術者が、にこにこと笑って写っている。


「検索履歴からは、質素な武器製作への関心がうかがえますが……」


「趣味でやっているだけだ」


「この男じゃありません。ただ、何か知っているかもしれませ——」


 甲高い音がニューロコム回線上で響き渡った。


【アカシィィィ、本当にこのままじゃなきゃだめ?】

 ⋆ ⋆ ⋆

 医師(エミ)はガイと長澤の後を追って廊下を進んだ。両手はまだ背中で縛られたままだ。


 医師(エミ)が大げさにため息をつく。


【キツく締めすぎだよ、ガイ】


【悪いな、若造】


 医師(エミ)は苛立って顔をしかめた。


【いいじゃん! いつから銃を使っちゃダメになったの?】


【テロス事件以降、細心の注意を払っているんだ】

 ⋆ ⋆ ⋆

 アカシは眼鏡のレンズに息を吹きかけ、小さな布で拭いた。


【ブリーフィング中はちゃんと話を聞いておくことだな】


 汚れがないか確認するためにメガネを持ち上げると、一筋の光が左レンズのひび割れを照らし出した。


【私があの人たちを撃ったわけじゃないんだけど!ちゃんとコントロールできてたし!新入りが私を引っこ抜くまでは!】


 ユキが死にたそうな表情をした。

 ⋆ ⋆ ⋆

 医師(エミ)は憤慨して口をとがらせた。


【今そこにいるのは人を撃つためじゃない。潜入するためだ】


【けど私にだって自衛権はあるはずでしょ?】


 長澤が振り返った。


【なぜ我々がここにいると思っている?もっとも、お前がこうして頭の中で騒いでいると、仕事がはかどらんがな】


 医師(エミ)は顔をしかめてベーッと舌を出した。

 ⋆ ⋆ ⋆

 アカシが立ち上がり、腰のストレッチをすると、ユキの肩を軽く叩いた。


「いいか、君はエミの第二の目だ」


「はい、先輩。じゃなくてドクター!すみません!」


 ユキはすぐさま目をぎゅっと閉じ、唇をすぼめ、眉をひそめて集中した。


「トラブルの兆候が少しでもあれば彼女を引き離すんだ。わかったかい?」


 レンはアカシを穴が空くほど睨みつけた。 テロスの件は彼にも責任があるという無言の非難だった。エミを引き離せという命令をレンが下した時、「問題ない」と主張したのはアカシだったのだ。


 アカシは降参の意を示して両手を挙げた。


「もちろん、命令を出すのは君だ」


【エミ、分かったかい?】


【もぉー。どうでもいいけど】


 レンはしばらくの間じっとアカシを見据え、それから素早く振り返った。


【ノリ、何かあったら胴体を狙うように】

 ⋆ ⋆ ⋆

 ノリは銃口を医師(エミ)の背中に向けたまま、後方を歩いた。


【いかなる状況下であっても頭を傷つけることは絶対に許されない】


【はい、司令官!】


 医師(エミ)が振り返り、目を細めてノリを見た。


【誰も絶対に私を撃ったりしないよう、お願いしま——わぁ!】


 突然、医師(エミ)が長澤の差し出した手のひらにぶつかった。 ガイは武器を構えた状態で隣接する廊下に立っている。


【……クリア!エレベーター発見】

 ⋆ ⋆ ⋆

 レンは、残りの敵戦力をスキャンするアツの画面を見つめた。


「該当する人物はいないようです」


「IDを偽装している可能性は?」


「顔認証システムは幼少期まで遡って個人の記録を照合します。高度なフィルターを用いることは可能ですが、数十年にわたる複数の政府機関の記録にそれを後付けで反映させるとなると……」


 レンは、他に言うことが見つからず、ただうなずいた。


「スキャンを続けて」


 アツのディスプレイから、文字や写真、記録、動画が矢継ぎ早に流れ込んでくる。情報があまりにも素早く通り過ぎるため、レンは目で追おうともしなかった。 データの渦を見つめていると、不意に液体が流れる音が聞こえてきた。


 アカシがドリンクステーションにもたれかかり、あくびをしながらカップにコーヒーを注いでいる。ゆっくりとマグカップを唇に運び、縁をそっと吹く様子を、レンは信じられないという表情で見つめた。


「アカシ!」


 驚いたアカシは、熱い飲み物を手のひらに吹き出した。


「熱っ!」


 アカシは頭を傾け、撥水加工された自分の白衣からコーヒーが滴り、靴の方へ落ちるのを眺めた。その後レンの方へ向き直り、苛立って両腕を広げた。


「私ひとりじゃできない。エミの対応をお願い」


「今回はユキに任せるとのことだと思ったが」


 レンはその後もアカシを睨み続けた。アカシがユキをちらりと見上げると、ユキは片目で彼らを覗き込み、すぐにまた目を閉じて、聞いていないふりをした。


 アカシはため息をついた。


【エミ、医師から何か役に立つ情報は得られたか?】


【あんまり。 奥へ進めば進むほどノイズが激しくなる。アイコアを徹底的に改造してるよ】


 長澤が口をはさむ。


【プライバシーオタクめ】


 ガイも話に混ざった。


【まぁ、一理あるけどな】


【記録を探り続けろ。名前、場所、何でもいい】


【分かったけど、まるで迷路に入った気分だよ】


【迷子にだけはなるな】

 ⋆ ⋆ ⋆

 ガイは武器を構えたまま暗い処置室のドアを勢いよく開けた。


【……クリア!】


 しばらくして、腕を上げて鼻を覆った。


【……なんだ、この臭いは?】

 ⋆ ⋆ ⋆

 ケシは技術者に腕を引かれながら、バンカーの奥へと続く廊下をよろめきながら進んだ。足の裏が床に当たる感覚はあったが、歩みのペースを保つのが難しかった。足がうまく進まず、紐のほどけた技術者の戦闘ブーツにつまずかないよう必死で、心臓は胸から飛び出さんばかりに鼓動していた。


 突然、三人の男が逆方向に廊下を駆け抜け、ケシたちの横を通り過ぎた。ぶつかった瞬間、ケシは彼らが持つ銃に気がついた。サブマシンガンのようだったが、その滑らかな白い外装は今まで見たことのないものだった。


「心配するな、小僧。奥に武装庫があるんだ。『ドレッドゾーン』をやったことあるか?あれと同じようなもんさ」


 一瞬のうちに、男たちが消えた。技術者がケシを隣の廊下へ引きずり込み、ケシは必死に出口を捜した。


 抜け道があるはずだ。 隠し通路か何かが。

 ⋆ ⋆ ⋆

 ガイは処置室の壁パネルに手を滑らせた。そこにはポスターや、さらに自作の銃器の雑な設計図が貼り付けられており、そのひとつひとつが狂気じみていた。


【あそこだ】


 振り返ると、医師(エミ)が自衛隊の募集ポスターに向かってうなずいている。ポスターには、それぞれ陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊を表した三人のアニメ調の少女が描かれていた。そしてその左下隅には、小さく破れた跡があった。


 ガイが指を滑り込ませて引き剥がすと、取っ手のような溝と金属製のキーパッドが現れた。


【分からないな】


 ノリは手術用ロボットのアームから未装着のインプラントを取り外し、観察した。


【なぜリスクを犯してまで中国製の模造品に手を出すんだ?】

 ⋆ ⋆ ⋆

「自業自得だな」


 不機嫌そうな老人が作業台の前に座り、口元にたばこをだらりと垂らしている。老人は特に大型のライフルの側面カバーに開いたスリットに長い工具を差し込み、内部の部品を締め付けた。サブマシンガン同様、その銃口は完全に平らで滑らかだ。ケシは不透明な外殻越しに、銃身があるべき場所に同心円状の模様が幾重にも刻まれているのを、かろうじて確認できた。


「一体俺は何を考えてたんだ?クソみたいなアマチュアどもと関わるなんて」


 男は鮮やかなオレンジ色のウールニット帽をかぶり、汚れたベージュのアラン編みロールネックセーターを着ていた。技術者同様、少し栄養失調気味に見える。肌は青白く、目の下には濃いクマができていた。


「まあ、俺の知ったことじゃねぇが」


 荒っぽい見た目だが、ケシは男に落ちぶれた貴族のような、ある種の威厳を感じた。


 大きく張り出した耳に高そうなゴールドフレームの眼鏡をかけ、耳の後ろには白髪が広がっている。剃り残し部分が伸びきっていることから、しばらくヒゲを剃っていないことがうかがえた。だが、オイルで整えられた濃い口ひげを見る限り、技術者とは違い身だしなみを完全に怠っているわけではなさそうだ。


 銃製造者《ガンメーカー》は、うめき声をあげ、組み立てたばかりのライフルを肩に担ぎ上げると、それを技術者の頭の方へ向けた。技術者は無力な表情で見つめ返した。


「だが、あいつらどうやって見つけ出したんだ?お前、また夜食を買いにこっそり出かけたんだろ?言っただろ?あいつらのシステムに引っかかるって」


 ガンメーカーは再びライフルを下ろし、作業台の上にある外れたモジュール部品に手を伸ばすと、それを銃身下部の空いているソケットに差し込んだ。部品を叩きこむと、銃の側面にある帯状の部分に光の閃光が走った。


 ガンメーカーは眉をひそめた。もじゃもじゃの白髪混じりの眉毛が、八角形の眼鏡のレンズに届きそうになっている。


「誰だ、そのガキは?」


 ケシはここぞとばかりに口を挟んだ。この老人なら自分を哀れんでくれるかもしれない。


「おにぇがいでしゅ、ここからにゃしぃてくらさい。けいむにょにいきにゃくらい!」


 ──クソ!


 技術者がケシの背中を力任せに叩き、ケシの力の入らない頭が不自然にぐらぐらと揺れた。


「心配するな。こいつは味方だ」


 ケシは首をふらつかせながら、ガンメーカーの作業場をくまなく見渡した。


 武器庫という表現は正しかった。部屋は壁一面にびっしりと変わった見た目のライフルのラックが並び、作業台にはあらゆる完成段階の試作機が散らばっていた。


 ケシは自分の目が信じられなかった。


「で、どうしたらいい?どうやってあいつらを俺たちの頭から追い出すんだ?」


「お前の頭な。言っただろう、あいつらはアイコアさえあればなんでもできると。お前はゲームをするために魂を売ったんだ。 今すぐここで撃ち殺してやる」

 ⋆ ⋆ ⋆

 アツは椅子にもたれかかった。


「応答なし。プロファイルには問題ありません。 移動した可能性があります」


「映像フィードを見せて」


 メインのホロディスプレイ上では、フィールドエージェントたちの映像フィードが消え去り、中央に新たなウィンドウがいくつか現れて、バンカーに潜む男たちの映像が映し出された。 そのうちの一つの画面では、5人目の男が大型のEMPライフルを構えているのが確認できた。


「あの男だ」


 システムが自動的にガンメーカーの顔認証を実行した。彼のID、および個人の記録とデジタルフットプリントがアツの画面に映し出された。技術者同様、若く、幸せそうで、今よりも太っている。


「早稲田の元機械工学教授……」


 情報を読み取るアツの瞳が揺らいだ。


「……以上です。MICに登録済みのアイコアはありません」


 アツがレンの方を向いた。


「彼はネイティブです」


 レンは眉を寄せ、頬の内側を噛みしめた。


 こうなるのは時間の問題だった。彼らの武器が効かない唯一の人種。


 最近では、インプラントを入れていない者のほとんどは、年寄りか被害妄想型のどちらかだった。この男はその二つを組み合わた危険人物のように見えた。経験豊富な、抜け目のないテクノロジー嫌悪者だ。


 男の手に握られたその銃は、ただならぬ代物だった。そして彼の背後の壁に並んだ棚を見る限り、それは数ある銃の一つに過ぎなかった。


「まったく、なんという大きさだ」


 アカシでさえも感心しているようだった。


 レンはユキに鋭く指示をする。


「ユキ、エミの準備を」


「はい、司令官!ただ……」


「あの男ではなく、三道の方だ。直ちにガンメーカーを無力化しなければならない」


「司令官」


 レンが振り返ると、アカシが柄にもなく心配そうな表情で見つめていた。


「二度の移植は彼女のエゴに負担がかかりすぎるかもしれない」


 ──今さら気にかけるのか。


 だからといって、考え直す時間などなかった。


「考慮しなきゃいけないエージェントが他に3人もいるんだ」


【エミ。新たなオルターが見つかった。準備して】


 エミが皮肉っぽく答えた。


【はぁ、そうですか】


【チーフ、突入準備完了】


【いけ!】

 ⋆ ⋆ ⋆

 ノリはインプラントを調べ続けている。


【ノリ。 それはもういいから、後始末をお願い】


【はい、司令官!】


 ノリはPK10を再び医師(エミ)に向けて構えた。

 ⋆ ⋆ ⋆

 技術者は慌てて頭を抱えた。


「ヌースは一体どこにいるんだ?!大至急応援が必要だって伝えろ!」


 ガンメーカーが立ち上がった。大型ライフルはジャイロスタビライザー付きのハーネスで腰に装着されている。


「電話じゃねぇんだよ、バカ。ヌースがいつ話すかなんて俺が決めることじゃ——」


 突然の銃声がその言葉を遮った。


 ケシは恐怖で仰け反った。


「あのクソ野郎どもは俺にまかせろ」


 ガンメーカーは出口に向かって歩き出し、振り返った。


「戦うつもりなら、せめて本物の銃を使え」


 ケシはガンメーカーが廊下へと消えていくのを見届けた。


 ──おしまいだ。僕はこうして死ぬんだ。


 ケシは自分の手の中にある、その場しのぎのピストルを見下ろした。


 この銃は、発砲するより爆発する可能性の方が高いとケシは思った。もしかしたら、あのサブマシンガンのような銃が、他にもあるかもしれない。


 突然、ケシは肩を掴まれた。


 技術者が目を大きく見開いて、ケシを見下ろしている。


「いいか、小僧。あいつらはヤベェぞ。どうやるのかは知らんが、人に憑依できるんだ。普段なら絶対やらないようなことをさせる。何を言われようと信用するな。警察の制服を着ていても、奴らは警官じゃない。敵のために動いているんだ。真の敵のためにな」


 ──この男、正気じゃない。


 ケシは荒く息を吐いた。


 ──いいか。しっかりしろ。


 まさか引き金を引くなんて、できる訳ないのに……。


 違う、最善の策は銃を捨て、両手を上げてその場に待機することだ。自首すれば、見逃してくれるかもしれない。彼らは明らかにもっと大きな獲物を狙っている。


「おい、聞いているのか?」


 技術者はケシの銃身をつかむと、自分の額に押し付けた。


「もし俺もやられたら、その銃をここに向けて引き金を引くんだ。わかったか?」


「なんだって?そんなことできるわけないだろ!」


 ケシは口元に触れた。 不思議だ。突然、話せるようになった。 手足にも感覚が戻り始めている。


 一瞬、技術者の瞳がまっすぐ前を見つめているように見えた。


「心配するな。その方が俺にとっては助かるんだ」

 ⋆ ⋆ ⋆

「佐々木司令官、IDの連携が完了しました!」


 ユキがホロディスプレイをじっと見つめている。画面上ではエミと技術者のIDが光っていた。コンソールの後ろに戻ったアカシは、レンに向かってうなずいた。


 レンは力強く頷き返すと、メインディスプレイの方を向き、振りかざして敬礼の動作をした。その後、まるで拳銃を発砲するかのように天井に向かって二本の指を突き立てた。


「シグナル、クリア!」


「はい、司令官!」


 司令室に深いうなり声が響き渡り、次第に神秘的で波打つような音色へと変化していく。


 エミの頭上では、光の輪が脈打ちながら徐々に輝きを増していった。


「ID移植を開始します!」

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